本仁田山(ほにたやま)

投稿者
辻村永樹(2001年学部卒業、現在大学院在学中)
日程
2002年10月13日(日)日帰り
行程
奥多摩駅→安寺沢→本仁田山→コブタカ山→大根ノ山ノ神→鳩ノ巣駅
地図
「武蔵御岳」「奥多摩湖」(1/25000)

  • 奥多摩の本仁田山という山に登ってまいりました。この山のメリットは、入山前、下山後とも登山口と駅の間の距離が短くて、徒歩で移動できることです。おかげでバスの時間やらタクシーの料金やらを気にする必要がありません。しかも、そのわりには登山客が少なく、おちついて登れる穴場の山だとおもいます。
  • ぼくは奥多摩駅から登りはじめて鳩ノ巣駅をゴールにしましたが、ガイドブック等をみると、その逆のコースもわりと一般的みたいです。でもぼくはあまりおすすめしません。そのわけは後述します。
  • 今回は同行者がまったくの初心者だったため、そうとう余裕をもった行程にしました。ご家族で登るときなど理想的なコースではないでしょうか。これではものたりないかたには、本仁田山からさらに奥の川苔山(かわのりやま)をまわって降りてくるという健脚むけコースもあります。行ったことはないですが、景色のいい山だそうです。

8時45分、奥多摩駅に着いた。今はどうだかしらないが、ぼくが現役だったころ、山の子の打ち上げ山行は毎年この近くの氷川キャンプ場で行われていた。だからいままでこの駅を降りるときはいつも夕暮れどきだった。そのために、奥多摩駅はぼくのなかでなんだか「地の果て」というイメージがあったのだけれど、こんなに朝早く着いてみると、なんてことのない田舎の駅であった。

駅前のバス停ではえらいたくさんの人がバスを待っていた。みんな雲取山とか御前山とか、もっとはなやかな山に登るのだろう。ところで、登山客って、なんでみんなあんなにおなじ恰好をしているのだろう。チェックのシャツなんて、繁みの中では迷彩になってしまって、遭難したときなんか逆に目立たなくてあぶないとおもうんだけどな。素朴な疑問ですが。

氷川キャンプ場方面とは逆の方向に川沿いに歩いて、北氷川橋と夫婦橋という二本の橋を渡る。ところどころに立て札が立っているので、道を間違えることはないでしょう。アスファルトの道をひたすら登る。50分ほど歩くと安寺沢の登山口に着く。わさびを栽培している民家が目印です。

登山口は、その民家のすぐ脇にあって、なんだか勝手に敷地のなかに入っていくみたいで気がひける。「熊出没注意」の張り紙がしてあったが、見なかったことにして山道に入ってすこし休憩。

9時50分、登山道を登りはじめた。けっこうな急登でした。南アルプス初日、便ヶ島からの樹林帯をおもわせる。同行者ははやくも不安げな顔。あせらずに登りましょう。じっさい登山をはじめたばかりのひとは、まず樹林帯のはてしないしつこさに辟易するものだ。これが永遠につづくんじゃないかって。じつは、このルートは奥多摩の山の中では一二をあらそう急登らしいのだが、同行者にはだまっておいた。

45分くらいがんばって登りつめると、大休場という開けたところに出る。ここでいったん休憩。ぜんぜん人がいなくて静かだった。たぶんちょうど登る人が少ない中途半端な時間だったのだろう。

10時40分発。ここからは、樹林帯の密度がまばらになって、すこし見通しがよくなる。おなじ登りでも、なんだか楽なような気がするから不思議。40分ほどのんびり登って、開けたところで休憩。このころから、だんだん後から登ってくる人たちに追い抜かれるようになってきた。ぼくたちはぜんぜん急いではいないのでどんどん先に行ってもらったのだが、それにしても中高年にかるがると抜かれてしまうというのはちょっとおもはゆいものだ。これでもまだ二十代だというのに。11時30分発。

登りながら、どこかで読んだ「森のくまさん」の新解釈を同行者に教えてあげた。それによると、くまさんというのは熊ではなくて、クマさんという腕利きの刑事なのだそうだ。かれは恩人の娘に恋をするのだが、その娘が犯罪をおかしてしまう。娘は森に逃げ、クマさんが追う。そして娘を追いつめるのだが、恋人を逮捕するに忍びず、クマさんは「お嬢さん、お逃げなさい」と言うのだ。しかしお嬢さんはそこに重要な証拠物件である白い貝殻のイヤリングを落としてしまう。クマさんは罷免の危険をもかえりみず、お嬢さんにそれを届ける。クマさんの思いに打たれたお嬢さんは、ついに自首を決意する。「お礼に唄いましょう」の「唄う」とは、裏社会の隠語でいう「自白」のことだというのだ。

そんなどうでもいい話をしながら30分ほど歩くと、木々の切れ目から青空が見えて、人の声がきこえてきた。まさかまだ頂上じゃあるまいとおもって「どうせにせピークだよ。山ではよくあることなんだ」なんてえらそうに言ってたが、あっさりとそこが頂上であった。山頂の直前に分岐があるはずなのだが、気づかなかった。12時ちょうど、山頂着。

本仁田山の山頂は、木が茂っていて360度のパノラマというわけではないが、東側と西側の二箇所、木が切り払われていてそこから向こうが見られる。東の山の遠く向こうにみえる街並みは青梅市かな。秋のやさしい陽に照らされて、きらきらと光っている。西側の木々のあいだからは、薄墨色の富士山が浮かびあがっているのが見えた。前世紀に書かれたガイドブックには「山頂は木が茂っていて景色には恵まれない」とか書かれているものが多いけれど、たぶんそのあとに木を切ったのだろう。景色はいちおうちゃんと見られます。見晴らしのいいところに陣取って昼食。

13時、山頂発。立て札に従って鳩ノ巣駅方面へ平坦な道を歩く。適度に日陰になっていて、木もれ陽が気持ちいいです。軽いアップダウンを繰り返しながら40分ほど歩くと、見晴らしのよい崖に出る。とくに山頂の看板は立っていないが、そこがコブタカ山らしいです。

13時55分、下りはじめた。道のまわりの木々が切り払われていて、きれいな景色が楽しめた。これは景色が見えるようにというよりも、山火事の延焼防止のためかもしれない。しばらく下ると、ふたたび樹林帯に入った。きゅうに周りが暗くなった。

鳩ノ巣方面から登ると、ここの登りは、奥多摩方面から登るよりもやや緩やかであるかわりに、距離は長くなる。朝はやく出ないと、山頂に着くのが遅くなってしまいそう。日帰りのときは、奥多摩から登ったほうがよいでしょう。45分ほど下ると、下にアスファルトの道路が見えた。やれやれ、そろそろ登山道は終わりかと期待したが、登山道はそこからまだ続いているのであった。これこそにせピークだ。ご注意。大根ノ山ノ神の祠がそこからすぐのところにある。ここで休憩。

15時20分、気をとりなおしてまた下る。30分くらい下ると、街のざわめきが聞こえてきて、鳩ノ巣駅が近いことがわかる。16時ころ、やっとのことで鳩ノ巣の登山口に到着。コスモスの花がたくさん咲いていて、ぼくたちを迎えてくれた。こちらは登山口から駅まで歩いて10分くらい。こっちから登ると、すぐに登山道に入れるかわりに、下山してから奥多摩駅までそうとう歩かなければならないので大変だろうとおもいます。

鳩ノ巣は温泉が何箇所かあるが、一般入浴者は3時とか4時で終わりのところが多い。ぼくたちは温泉に入れず、鳩ノ巣渓谷の遊歩道をしばらく散歩して、17時23分の電車で東京に帰りました。

このまえ最後に山に登ったのが、大学三年の夏合宿で南アルプスのCLをやったときですから、三年ぶりの山行ということになります。それでもなんの違和感もなく自然に歩けてしまったのはわれながら驚きでした。天気も上々だったし、ひさしぶりに体を動かして、体も喜んでいるみたいでした。まあこんな感じで、ちょくちょく山とおつきあいを続けていきたいとおもいます。

今回はほんとうにゆっくりペースで登ったので下山が4時を回ってしまいましたが、普通の登山ペースで歩けば2時半くらいには降りてこられるのではないかな。きつすぎもせず楽すぎもせず、まわりにもいい山がたくさんあるみたいですし、山の子のクラブ山行に組み込むのもありだとおもいますよ。 

以上。辻村永樹がお届けいたしました。